空ばかり見ていた

剛くんの舞台「空ばかり見ていた」大阪公演を観てきました。
難しいという感想をたくさん見かけたし、最近はすっかりミュージカルに偏っていたので理解できるか心配でしたが、なんとかついていけてホッとしました。完全に理解はできてないけど、多分そういうものだから問題ないはず。

これは私の解釈なので間違ってるかもしれないけれど、同じ「事実」に対して、関わる人それぞれの「解釈」を通した「記憶」をもとにして語られるため、食い違いが生じるのはよくある話である、というのがこの作品の伝えたいことではないでしょうか。
これは、私がこの作品を観た「記憶」をもとにパンフを斜め読みして自分の中で生み出した「解釈」なので「事実」かどうかは断言できません。違うよ、って岩松さんに言われるかもしれないけれど、違うと言われるまでは私はその解釈でいきます。

舞台では時系列が行ったり来たりするし、同じ事柄のはずが別の人からは違う状況として語られるしで、何が本当なのか戸惑ってしまうのだけど、こういう作品、ブイ担なら思い当たるものがあるんじゃないかしら?そうです。「戸惑いの惑星」です。(そうか?)
「戸惑いの惑星」はある程度「答え合わせ」があるのでスッキリできたけど、世の中「答え合わせ」が出来ることばかりではありません。「真実はいつもひとつ」って、実際そうなのかもしれないけど、コナンくんの推理が真実と全く一致するとは限らないし犯人の記憶も自白も本当とは限らないし証拠もねつ造されてるかもしれないし。つまり、コナンくんの解釈でしかないのです。

コナンくんと解釈違いを起こすことはまず無いので、別の身近な例を挙げます。
コンサートの同じMCについて違うレポが流れてくることは、わりとありますよね。違う人が喋ったことになってたり、時系列が違ったり、ボーッとしてたかムッとしてたかニコニコしてたかもレポする人によって違う。自分の入っていた現場のレポだと、自分の記憶とすり合わせながら読むし、入ってない現場のレポだとピースを繋げてイメージを膨らませる作業になる。時々、自分の記憶と違っていたり、人によって言ってることが違ってたりして混乱し「映像で見せてくれ〜〜」となるけど、いざそのMCが特典映像に入っても見たいところは映ってなかったりして。

もう少し舞台の内容に戻すと、描かれているのは「反政府軍のゲリラ組織」で、具体的にどんな思想で政府のどのような部分に対抗しているのかはよくわからないのだけど、言葉の端々に「奴らの自作自演に決まってる」「あいつらならそのくらいやりかねない」みたいな台詞がありましたね。こういうの、巨大勢力の陰謀説でよく聞く!
もちろん、実際のところ政府が本当に陰謀のために自作自演してる可能性だってあるわけだけど、「自作自演に決まってる」というのはゲリラ側の「解釈」であって「事実」かどうかはわからないのです。でも、さもそれが「事実」であるように語るし、その「事実」を根拠に別の事象に対する「解釈」をします。こうして「事実」は人によって様々な姿に変貌していきます。これも世の中によくある話。

岩松さんの作品は「不条理演劇」と呼ばれるそうで、「不条理演劇」とは人間の不条理性を描く作品のことだそうです。
不条理演劇はわかりにくい・難しいと言われがちで、今回の感想もまさにそんな声が多かったのだけど、なにが理解を難しくさせているかというと、何が真実かわからなくて話の道筋がつかみにくいからではないでしょうか。まさに「不条理」の意味は「事柄の筋道が立たないこと」なので。誰がリンを襲ったのかわからない、誰が裏切っているのかわからない、誰の言葉が正しいのかわからない、誰の真意もわからない。
でも、現実の世の中も不条理で、わけがわからないことが多い。混乱したままでは生きづらく、自分に正しい道筋を示してくれる存在に救われる人もいるでしょう。コナンくんの出番です。
剛くん演じる秋生は、反政府軍のリーダー吉田に心酔し、リーダーの指示に従って動くことにこれまで何の疑いもありませんでした。でもリーダーの真意がわからなくなって初めて、心が揺らぎます。リーダーが指し示すのは本当に正しい道筋なのか。それと同時に、これまで何の疑問もなかったリンへの恋愛感情もわからなくなってきます。

全てに疑問を持ちながら生きていくのは疲れるので、何の疑いもなく「そういうものだから」と思い込んだりマイルールを決めたりして、判断を省力化するのが楽なのは確か。でも、新たな情報に触れることで別の解釈に出会ってしまうと、これまで信じていた「当たり前」が揺らいでしまうのですよ。考えるのはしんどい。面倒くさい。私の「当たり前」を壊してこんなしんどい思いをさせるなんて許さない、と怒りが湧いてくることもあります。
「信じる道を進めばハッピーエンドが待っている」というお芝居は幸せになれるけど「本当にこの道で合ってるのかな?」と迷ってしまうのが現実。でもみんなそんなものだよね、ということをフィクションで教えてくれるお芝居も優しい。みんなそんなものなのです。

書きながらぐるぐるしてしまった。
私はこの物語の「私なりの筋道」は見つけきれなかったけど、筋道が見つからないというモヤモヤに対して「まぁ、そんなこともよくあるよね」と共感が出来て、スッキリしています。

ミュージカルはわりと起承転結というか勧善懲悪というか、主役と悪役がわかりやすくて、ストーリーもわかりやすくて、感情の起伏が音楽で表現されるからわかりやすくて、初見でもとっつきやすい内容になってる気がします。時代劇ぽい。でも、ストーリーにツッコミ入れたくなるものも多々あるし、わかりやすく提示されたものを流し込むだけでなく、少々かみごたえのある作品をよく噛んで食べるのは身体にいいよね。
自分の趣味で観劇してるから好きな味の作品ばっかり食べがちなんだけど、ジャニオタやヅカオタは推しを人質に取られて色んな作品を半強制的に観ることになるから、それはそれで様々なものが食べられて良いと言えなくもない。給食みたいなものですね。好き嫌いがあるのは仕方ないけど、いろんなメニューを食べられることに感謝して、いただきます。