MURDER for Two

出演者は松尾貴史さんとの2人きりで、自分たちでピアノを演奏しながら、13人の登場人物を演じる。坂本さんは、容疑者の10役を1人で演じ分ける。
こんなミュージカル、私は今まで観たことがありませんでした。

まーくんさんはネット巡回中に偶然、オフブロードウェイの観劇ブログでこの作品の存在を知り、いつか出来たらいいなぁと思ったそうです。マネージャーにその話をしてピアノのレッスンを始めたところ、それからたった数ヶ月で出演の話が舞い込んで来たそうで。お城の舞踏会に行きたいと言っていたら魔法使いに連れて行ってもらえたシンデレラみたいじゃないですか?どうしよう!零時になったら魔法がとけちゃう!(落ち着いて)

以前から何度も何度もネチネチと書いている通り、まーくんさんのミュージカル(略してマージカル)が、さほど大きくない劇場*1の短い期間のものばかりで、ほぼブイ担の中だけで消費してしまって一般のミュージカルファンに観ていただく機会がない状況をとても嘆いていました。
2月のミューコンはオーチャードホールで3日間4公演しかなく、ブイ担でも全然取れなくて。その公演中に発表された次の舞台が、世田谷パブリックシアターで上演されるこのマーダーだったから、青劇やグローブ座よりキャパが小さいじゃないか!またブイ担すら取れないのでは!と眩暈がしていたのです。
もちろん3日間4公演に比べれば取れたのですが、以前よりは全然取れにくかった気がします。
そんな状況でも、一部のやり過ぎなファンたちは何公演もリピっていて、私も例に漏れず、大阪公演にも東京公演にも何回か(※ごまかす)入ることが出来ました。マージカル中毒なので、ホント許して欲しい。何なら更生させてくれ。

公演が決まってすぐ、オフ・ブロードウェイのオリジナル版CDを入手して事前に聴いていました。声色を変えて1人で何役もやっているのと、英語が絶望的にわからないのとで、どの役が何と歌っているのかは全く理解できなかったので、どれだけ聴き込んでもネタバレにならずに済みました。ありがとう日本の英語教育。普段ネタバレはそれほど気にしないのですが、一応ミステリーで謎解きもあるので…。

まーくんさんは、同じ衣装のまま、眼鏡の付け外し程度で老若男女の容疑者10役を見事に演じ分けました。楽曲は恐らくオリジナルCDとほぼ変わらず、聴き覚えのある曲だけどこういう歌詞だったのか、と答え合わせをするかのように観ていましたが、CDの中で一番好きだった曲「He needs a Partner」を歌うステフに、ストンと恋に落ちました。
マーダーを観た人たちの中では「どの役が好きだった?」という話になるのですが、意外とバラバラで面白かったので、ツイッターで投票していただいた結果を載せておきます。こうやって見ると偏ってますが…。
ちなみにまーくんさん担当の役柄は、容疑者は10人ですが、回想シーンの2人はまーくんさんの演技に松尾さんが声をあてているのと、死体役もやります(笑)



色っぽいキャラとしては、バレリーナのバレットは美しくて麗しい悪女。ずっとバレエのポーズでお尻がキュッと上がっていて超セクシー。バラバラ殺人犯のヴァネッサも、声をあてるのは松尾さんだけど、頭のイカれた表情が最高にエロかったです。
カッコイイキャラだと、中年夫婦の旦那マーレは声の渋いオジさまだし、消防士のヘンリーは訛りがキツイ面白キャラだけどすごくエエ声で歌い上げます。アドリブで松尾さん演じるマーカスと絡むところは回を追うごとに過激になっていたようで(笑)
可愛いキャラは、女学生ステフと少年合唱団のヨンカーズが双璧。少年合唱団の3人は背が小さいので膝立ちです。膝立ちのまま踊るしピアノ弾くし大変!真ん中でよく喋るのはいかにも田舎育ちっぽいティミーですが、ヨンカーズはキャップのつばを後ろにしてかぶり、マーカスに顔を近づけて甘い声で「こう、唇をすぼめてぇ 」と口笛の仕方を教えてくれる小悪魔です。ステフは髪を耳にかける仕草が特徴。大学院で犯罪学を学んでいて、マーカスの助手に立候補するものの何度も断られ、そこで歌うのが「彼には若くて元気なパートナーが必要よ」という歌なのです。マーカスに喋りかける時はぶりっ子なのに、壁にもたれながらこの歌を歌うときは素直で綺麗な高音。女装してない若干ナチュラルな計算マコちゃんを想像していただけるとそれほど間違いないかと。観てない方にはやっぱり想像しづらいでしょうけど…。おじさんが選ぶのはいつも20代女子だよね!と呪いの言葉を吐きたくなります。怒ってません。
ドクター・グリフは超ガニ股で腰を落とした精神科医のおじいさん、ダーリアは丸眼鏡をかけたおばあさん、どちらもとても愛らしいです。友情の歌を歌ってもらって思わず踊ってしまいヘトヘトになるグリフ。ダーリアは念願だった壮大な曲を歌い踊り、最後にはピアノの上に乗ってキラキラの紙吹雪を浴びます。8年以上の担歴のまー担たちはもれなくピーター*2の姿が見えたと言ったとか言わなかったとか。

全員は書き切れませんが、まさに老若男女様々な個性的なキャラクターだらけです。キャラの切り替えに、いちいちカツラを被ったり服を着替えたりはしません。つけるのはダーリアの丸眼鏡と少年合唱団のキャップくらいで、あとは声色と姿勢や仕草でキャラの違いを見せます。インタビューでもよく言われていたのが、落語みたいなものですよということ。実際観るとまさにその通りで、例えば中年カップルを一人二役で演じ分ける様子などは落語でよく見る光景でした。ただ、それが10役にもなるので変化はめまぐるしく、それでもちゃんと違いが分かるのが凄いなぁとただただ圧倒されてしまいました。クルっと回転したり、髪を耳にかけるだけで別人になるの、ほんと魔法みたい。

観る前から「容疑者10役を1人で」というキーワードは知っていたものの「自分でピアノを弾く」のインパクトの方が強くて、うちの子はちゃんとピアノが弾けるのかしら、とハラハラする母親気分だったのですが、終わるとピアノより10役の方に心をとらわれていました。ピアノを弾くのは演出の小道具のひとつにすぎなかった。いや、もちろんすごく効果的に使われていたんだけど。代わりに別のピアニストが弾くんじゃなく、役者自身がピアノに向かわないと成り立たない作品ではあるけれど、今回の舞台ではピアノの鍵盤が舞台奥側に向いていて、最下手席でもないと弾いている指が見えなかったから、吹き替えで誰か別の人が弾くというのもありかもしれない*3。でも、それでもいい。この作品で「ピアノ頑張ってたね」という感想だけになっちゃうのは勿体無いので、ピアノを集中して見てしまうことが出来ない位置だったのは良かったのかなと思います。

どんなミュージカルをやって欲しいか

先にも書いたとおり、このミュージカルが発表になった時の率直な感想としては「世田パブとピロティホールなんて、また狭いところで!」「2人舞台とかこじんまりとしたものじゃなくもっと大きい作品に出て欲しい!」というもので、少々プンスカしていました。情報解禁はOMS2日目だったのですが、最終日3日目の挨拶で「出会いたい作品や出会うべき作品がある」と言われたことで、「これは出会うべき作品なんだろうな」と自分を納得させました。

そんなテンションで臨んだにもかかわらず、見終えた今はかなりの満足感です。土下座して謝りたい。色んなキャラクターが見られるということは、我々が夢見ていた色んな役柄を一気に見られるお得パックだということに気付きました。宝塚OG版CHICAGOがあるなら、ジャニーズ版CHICAGOをまーくんさんがやってもいいじゃない?!なんて夢物語を語っていたら、ロキシーみたいに歌い踊るし、ヴェロマみたいに色っぽい殺人者にもなる。ショタ役はブラッドブラザースで卒業かと思ってたし、ステフはまるで西之園萌絵。(※個人の意見です) こんな作品でないと実現しないキャラクターなので、本当にありがたいです。
コメディで女性役というのだからもっとコントっぽいふざけた口調になるのかと思っていましたが、ステフは普通に可愛いし、バレットは美しくて麗しくて、かなり困惑しました。可愛かったですよね?イカれたまー担だけがそう見えるってことはないですよね?表情変えすぎ&痩せすぎで、おでこのシワがより一層深い溝になっている浅黒いおじさんなのに…なぜ?後日発売された雑誌の写真を観ても、やはりどこが可愛くて美しくて麗しいのかわからなくて、何か催眠術にかけられていたのかもしれません。
また、キャラクターの違いを際立たせる不自然な発声のはずなのに、どの役も歌声は綺麗で、まーくんさんの地の歌声ってどれだっけ?と分からなくなりました。地の歌声は無かったのかな…?
コメディとしても2人の笑いが噛み合っていて最高に面白かったです。素のまーくんさんはこんなに間の良い笑いは取れないので(土下座案件)、松尾さんの笑いのセンスのおかげと、演出と稽古の成果であるのだろうなぁと噛み締めました。

そもそもこの作品はまーくんさんがネットで知ってやりたいと思っていたということで、まーくんさんにとっては「出会いたい作品」だったわけですが、じゃあファンである私にとって「出会いたい作品」って何だろう?本当に、多くの人に観てもらえる大作舞台なのか?でも、ゾロよりマーダーやオズの方が好きなんだから、個人の好みとしては別の観点があるはず。色々考えすぎてよくわからなくなってきました。

でも、まーくんさんが演ってくれないと私はこの作品に出会うことはなかっただろうし、この作品を「出会いたい作品」と言うことも恐らくありませんでした。まーくんさんがジャニーズのアイドルとしてミュージカルに出ているのは、色んな人にミュージカルの楽しさを知ってもらいたいからだと、どこかのインタビューで語っていた記憶があります(曖昧ですみません)。私は元々ミュージカルが好きだけど、それでも知らない作品に出会えるのはありがたいし、まーくんさんキッカケでミュージカルに興味を持ってくれる人が本当に増えてくれれば、ミュージカルファンとしても幸せです。

ネタバレについて

コンサートのネタバレについては本当に様々な意見があって、Twitterでもすごく気をつかうところです。個人的には、特にネタバレを回避したいと思ったことは無くて、逆に予習のためにセットリストを探してるのにMCの話題しか見つからなくてもどかしい思いをすることの方が多いです。MCの感想しか無いと、それしか楽しみどころが無かったみたいで残念な気持ちになるのですが、まぁネタバレに気をつかうとそれしか書けないのも分かる。
対して、舞台や映画のネタバレに関して意見が出ることが少ないのは「これを言ったら後から見る人がつまらなくなるから言わないでおこう」という判断基準が人によってあまりブレないからかもしれません。コンサートは、人によって楽しみにしているポイントが全然違うから、どんな情報が地雷になるか分からない怖さがあるのかも。

マーダーはミステリーで、犯人探しをするストーリーなので、最大のネタバレは誰が犯人かという点ではないでしょうか。公演は終わっているのでもう話してもいいんだろうけど、きっと再演してくれると期待して、今回観れてない方が初めて観る時に「あっ!」と思ってもらえた方が楽しいかなという想いもあって、まだ書くのは避けてしまいます。
そして、誰が犯人なのかが分かった上で、そしてキャラクタの見分け方を十分理解した上で2回目を観ると、より一層楽しめる舞台なのです。リピート欲という意味でなく、2回観れるならぜひ観てほしい。1度目を完全なネタバレなしで楽しむという意味では、上に書いたキャラクタ説明も本当はお知らせしない方がいいかもしれないけれど、きっとこれは「知ったらつまらなくなるネタ」ではなく「より一層観たくなるネタ」だと勝手に判断して書いてしまいました。本当に、なるべく早く再演してもっとたくさんの方に観ていただきたい作品です。

*1:キャパ500超える劇場は一般的には大きいんだろうけど、ジャニオタは感覚狂ってるから…。ドームは大きいけど横アリや城ホは大きくない、というのと同じ。

*2:2005,6,8年に上演された「THE BOY FROM OZ」の主役ピーター・アレンのこと。とにかく最高。ラストシーンではピアノの上に乗って歌う。

*3:いや!弾いてないとは言ってませんよ!実際ちゃんと弾いてらしたとは思いますが