ナイツテイル感想

ナイツテイル、帝劇1回梅芸2回観ました。発表された時は取れない気満々だったので大満足です。
初見では把握しきれなかった内容も3回も観れば…と言いたいところですが、3回目でも新鮮な気持ちで臨んだシーンはいくつもありました。全部を完璧に理解しなきゃいけないなんて思い込みは捨てましょう(つまり諦めた)
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そう!きっと記憶違いがあるはずと思って記録しておいた初見感想。早速大きな間違いがあって、エミーリアはフラヴィーナの話をするときちゃんと「彼女」って言ってた!やっぱり自分が信じられない!!人は自分に都合よく記憶を改造するのです。いや、都合よく一般化させましたが私個人の問題です。

他の方の解釈を受けて、毎回着眼点は変わっていきました。これぞリピート観劇の醍醐味です。正確に記憶していないのでレポとしては役立たずですが、心に残った場面を書き出しておこうと思います。

なぜ戦うのか

物語の中では似たテーマが繰り返し提示されます。
まず、3人の王女のためにクリオンとの戦いをシーシアスに望むヒポリタ。シーシアスが勝てば王女の亡き夫たちを葬ってあげられる、負ければシーシアスとの婚姻を解消して自国に戻れる。自分はどちらを望むべきなのか。
我が叔父ながらクリオンの暴虐ぶりに嫌気がさしているアーサイトとパラモン。シーシアスが勝てばクリオンを亡き者にできるが我が身も危うい、負ければクリオンとの人生が続く。自分たちはどちらを望むべきなのか。
エミーリアを賭けたアーサイトとパラモンの決闘。アーサイトが勝てばフラヴィーナの愛するパラモンが死ぬ、パラモンが勝てばパラモンはエミーリアと結婚する。フラヴィーナのためにはどちらを望むべきなのか。
戦いに勝つことは良いことばかりではない。戦いによってもたらされるのは何なのか。

シーシアスは誠実

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すごい…!教養も語学力もないと全く意味がわからない言葉遊びを解読できている方がいらっしゃる…!ギリシャ神話を知っているとより理解が深まるらしいのですが、アテネとテーベも覚えられない私には無理。
そんな私にも、シーシアスが誠実な人だというのは分かります。高貴な身分の2人を牢に入れるのにも傷を癒やして手厚く扱うし、結婚式を挙げるのが殺戮三昧の殺風景な場であることを憂いているし、ヒポリタのために家族を連れて来るし、ダンスを男女同数にしろと指示を出すし(そうです。シーシアスの指示でした)、芸術に対してきちんと報酬を出せるし。
戦闘民族の考え方を変えていこうとしている姿勢が見えるから、いい人なんだろうなぁと思いながら見ていました。

女性の人権

戦いに敗れたら基本的に自国には帰れません。アーサイトとパラモンは牢に入れられましたが、ヒポリタはきらびやかな服を着せてもらえている。でも自由は無い。
ヒポリタのこの言葉、一見女性の方が大切にされているように感じるけれど、本当にそうでしょうか?
アーサイトとパラモンの勝った方がエミーリアと結婚できる、と采配されてエミーリアは「私は褒美なの?!」と怒ります。
ギリシャ神話などでは「女神」という存在があるので、女性だからといって虐げられるわけではないだろうけれど、女神として崇めていても本人の意思は考慮されていないのかもしれません。
そもそも私たちは神様にあれこれお願いしても、神様の意思なんて考慮したことがあったでしょうか。

エミーリアを賭けた戦い

エミーリアが「2人のどちらかを私が選ぶなんて無理!」と言うのを受けて「じゃあ2人には決闘で決めてもらおう。勝った方と結婚することにして、負けた方は死ぬってことで」とシーシアスが仲裁するんだけど、なんで負けたら死ななきゃいけないのかは本当に謎。別に殺さんでも…。でも負けた方が生き残ると怨み続けてしまうからとかあるのかも…?

決闘自体は、それぞれ同じ人数を従え、全員が背中に立てた旗を奪い合う騎馬戦スタイル。これは決闘の抽象的表現なのかもしれないけど、本当に騎馬戦なら平和。最後は大将同士の一騎討ちになり、アーサイトが勝って。ということはパラモンが死ぬ…?と場に緊張が走ったところで「パラモンを死なせるなんて出来ない!死ぬなら自分も!」とアーサイトが叫び、「この2人を死なせるのは自分の罪だから私を殺して!」と飛んでくるエミーリア、「そもそもパラモンを逃して話をややこしくさせた私が最大の悪だから私を殺して!」と泣くフラヴィーナ。この大パニック状態から、パラモン・フラヴィーナ、アーサイト・エミーリアの2組のカップルが生まれてめでたしめでたしとなるのでした。雑な説明だけどこんな感じ。

同性同士の愛情と、異性の愛情

「男性と結婚するとか想像つかない。なんでこんな絶望しかない世界に子を産まないといけないのか。そんなことなら一生処女の方がマシ!」と言い切るエミーリア。現代日本でも共感する台詞です。
ヒポリタが3人の妹たちへの愛を語ると、エミーリアは11歳の時に一緒に遊んでいた同い年の少女フラヴィーナへの愛を語り始めます。フラヴィーナはある日突然いなくなり、乳母から彼女は死んだらしいと伝えられました。実は、フラヴィーナの父が王の不興を買って、牢の門番になったことが原因でエミーリアと引き離されたらしいことが他のエピソードから分かるのですが。フラヴィーナのことを話すエミーリアは「結婚なんて」と毒づいていたとは思えないトキメキっぷり。

エミーリアは偽名でダンスを披露しているのがアーサイトだと気付き、最優秀賞に選びます。アーサイトの機知に富んだ話しぶりに感心したシーシアスが、エミーリアの召使いとして受け入れることにしますが、エミーリアは特に嫌がるそぶりはなく、逆に興味を持っているように見受けられました。しかし、それ以上の意図はわかりかねます。
次に披露されたダンスで出会ったのはフローラ役のフラヴィーナです。11歳以来の再会なので確証はないものの、エミーリアの食いつきは最初からものすごく、倒れたフラヴィーナを「自分の部屋に連れて行って手当てする!大事にするから!」と抱きかかえて(比喩)行きました。

ここにも似た表現が繰り返し使われているので明確に比較できるのだけど、アーサイトへの食いつきとフラヴィーナへの食いつきが全く違う!アーサイトへの評価は「もう1人の顔も知らない方(パラモン)よりはマシそう」と散々な言いようです。それなのに突然「アーサイトを愛してしまった!」と言い出すものだからフラヴィーナじゃなくても「えええっ?!」となる。「あんなにも馬鹿!(吐き捨て)なのに!顔はいいから!」せやな。

フラヴィーナは最初からアーサイトよりパラモン派だし、1人残されたパラモンへの愛情も、はぐれてからの絶望も分かる。パラモンのこと買いかぶってるよ、と忠告したくなるけど、まぁ見た目がアレだから仕方ない。

一方、男性陣はと言うと「古参優先・同担拒否!」パラモンvs「君は心で愛する、俺は身体で愛する。同担OK☆」アーサイト。ずっと男2人で牢に閉じ込められていて久しぶりに見た大人の女だもん(フラヴィーナは少女だと思っていたからアウトオブ眼中)、そりゃ盛り上がるよね、わかるわかる。この程度で始まったのに決闘にまでなって、そりゃエミーリアも「なんでこんなことに!私はこの人たちのことほとんど顔すら知りもしない!」と嘆くわ。この2人もエミーリアのことは顔しか知りません。

エミーリアに会えると聞いて危険を顧みずに偽名でアテネに戻るアーサイトだけど、実際にエミーリアとお近づきになれても愛情とかトキメキとかあんまり感じない。忠犬ぽい。身体目当ての人とも思えない。

エミーリア同担拒否のパラモンは、フラヴィーナに告られると手のひら返して「君のことが忘れられなかった」とカップル成立。パラモンのエミーリアへの執着がアーサイトへのライバル心からだとしてもまぁまぁわかりやすかったのに対して、フラヴィーナに対しては「忘れられなかった」というよりも、自分に好意を示してくれる女の子のことが少しずつ気になってきた、の方が正解な気がします。

女同士、男同士で深い愛情で結ばれているんだけど、異性にも愛情を感じて、同性の愛情も異性の愛情もどっちが大事と選ぶことは出来ない。そんなことをアーサイトが教えてくれました。あれ?ナイツテイルってそういう話なのかな??
まぁ、あの2組のカップルはお似合いだし、4人で仲良くやれば良いではないですか。

ダンスの名手

ナイツテイルは元々ダンスミュージカルと謳っていたので、アンサンブルのオーディションは歌だけでなくダンスの要求レベルも高かったようです。作っていくうちにダンス成分が減ってしまったと言われていましたが、コンテンポラリーな要素が高くて難しそうだなと、ダンス素人の私は感じます。

大澄賢也さん演じるジェラルドが楽団メンバーの出来の悪さを嘆いているところに、自分の踊りを見てくれと言って現れるのがアーサイトです。踊りを認められてメンバーに加わり、しかもエミーリアに最優秀と選ばれるのですから、アーサイトは相当ダンスが上手くないといけないと思うのですが、出来が悪いはずのメンバーも下手くそに踊っているだけでホントはめちゃくちゃ身体能力が高そうなのがビシバシ伝わります。しかもお手本として一緒に踊るジェラルド先生が上手すぎる!ジャニーズこの程度かよと思われるんじゃないかしら、せめてもう少し脚が上がってくれれば上手そうに見えるのでは…、と老婆心が顔を出してしまいます。

そんなことをグチグチ言っていたら、賢也さんから有難いお言葉が!
「ナイツテイル」談義 | 大澄賢也オフィシャルブログ「KENYA CORD」Powered by Ameba
本当に嬉しい〜〜。私はダンスのことが全然わからないから「そうですよね!」と同意できないのが残念ですが…。

芳雄くんとのW主演ということで、歌は芳雄くん、ダンスは光一くん、とそれぞれの得意分野を生かすのかという話が出ていた気がします。歌は、そりゃ芳雄くんの上手さは半端ないんだけど、2人で歌うところはこーさまも負けてなくてホッとしました。そうなんだよ〜。キンキの超難しい曲を超歌うまつよさまと2人で歌ってるんだから、こーさまは歌える人なんだよ〜。
ところがダンスで「思ってたんと違う」になったのは、トラヴィスとか屋良さんとかのガッチガチに振付があってガッツリ踊るダンスのイメージがあるからなのかもしれません。今回のナイツテイルはそういうガッツリ系とは種類が違いそうだし、私が好きなのはガッツリ系ダンスを必死の形相で踊るこーさまなので、好きなヤツが見れんかった、というだけの話なのかもしれません。

☆☆☆☆☆

本当は「ナイツテイル上演の意義」を語りたいところですが、長くなってしまったので別の機会にします。
ナイツテイルは今回初演で、シェークスピア作品の分かりづらいところもありつつ、考えるな感じろ、で伝わる部分もあり。おそらく私の記憶もまだまだ曖昧で嘘八百かもしれませんが、こういう風に受け止めてこういうところが引っかかったよ、というものがあれば観た甲斐もあったというものかと前向きに受け止めています。

再演、皆様のお声があればってことでしたけど、どうですかねぇ。誰がやるかはともかく、海外に持っていって欲しい気持ちはありますね。日本のミュージカルの新たな展開が見たいです。